ゆっくり着替えてしね!

他県で暮らしたことがないので、よその事情は良くわからないのだが、静岡県には年に何度か防災訓練が行われる。名前こそ知られているが、もはや来る来る詐欺ではないかと思うくらいに来ていない、あの東海地震というものに備えている、という名目で行われている。

30年前くらいに「もうすぐ来るかもしれない!」というような報道とともに始まった初期の防災訓練は、さぞかし真面目に行われていたのだろうが、現在ではもはや恒例行事と化していて、県民の半分は訓練である放送とともにその存在を思い出し、そのまま普段と変わらぬ生活に戻り、残りの半分のうち9割以上が避難指定地に井戸端会議をしに行く、などといった雰囲気である。

残りのわずかな人たちにより消火の体験やトリアージの取り扱い説明会などのイベントが行われ、訓練終了時に避難指定地でもらえる参加証明書の学校への提出が義務付けられた生徒たちの数は、終わるころになると避難直後より大幅に増加していたり…などという大変けしからん雰囲気である。回数を減らしたり抜き打ちで深夜に行ったりしたほうがたぶん効果はあるだろう。

余談だが、夏の防災訓練の実施日は8/31か9/1のどちらかである。今年は8/31日なのだが、無対策で宿題ラッシュとなってしまった生徒たちにとっては、時間の浪費による精神的な苦痛もあり、耐え難い時間となるであろうと思う。この日程組みは本当に生徒いじめとしか思えない。


まあそれはどうでもいいとして、一つ引っかかる点は「生徒たちの数が大幅に増加している」という現象が、なぜか自分の住んでいる地区以外でも容易に観測できてしまうという状況である。理由はとても簡単、生徒たちが体操着やジャージで参加するからなのだが、休日をわざわざ狙って行われるこの防災訓練に、なぜ体操着なのだろうか。これも理由はわかっている。学校側が「体操着で参加しろ」という風に強制しているからである。私が生徒のときもやはり同じようなことが通達され、そのときに教師に食って掛かったのだが、小中学生の力がどうたら、識別が利くほうがいい、などと、これまた意味のわからない理論で返され、納得のいかないままに話は終わってしまった。


その理論だと、本当に地震が起きたとき、倒れた家から体操着を引っ張り出して着替えてから避難しろということを言っていることになぜ教師は気づかないのだろう。中学生くらいの年齢が体力的に役に立つのは解るが、識別を体操着に頼るというのは、浅はかの極みであるとしか言いようがない。むしろ、そうでなければ識別できないコミュニティを何とかするほうが先決だ。それが実現しなければ、防災訓練の度に代表者が閉会時にマイクで喋っていた「地域防災」などというものは夢物語でしかないということに、大人たちはいつ気づくのだろうか。