もの言えぬものの訴え

目を覚ますと、棚の上に置いたはずのウサギの縫いぐるみが、その不安定さゆえに不可能であるはずの直立姿勢を保ったまま私をそのフェルトでできた瞳で見つめていた。
窓の外はまだ暗い。起きるにはまだ早い時間だろう。どうして突然目が覚めたのか、そしてなぜウサギが立っているのか、私が考える間もなく、ウサギは不気味な笑い声を上げながらその場から飛び上がり、私の視線を翻弄すると、突如頬に痛みが走った。ウサギがその長い耳でひっぱたいてきたのだ。さっきからもう片方の頬がじんわりと痛むのは、目覚める前にあいつがやったのだろう。
本棚の上から電灯のかさの上へ、そして机の上、オーディオの上。ウサギは部屋の中にある家具を次々と飛び移って行った。そのスピードはどんどん増していき、ついにその姿はほとんど帯のようにしか見えなくなって行った。時折そのルートが外れるかと思うと、私の頬にまた痛みが走る。だんだん私は腹が立っていった。
ウサギが周回するコースの、ただ一点を見つめる。そしてタイミングを取り、そこにいるであろうウサギに飛びかかった。ところがウサギはそこにおらず、その向こうにある窓にぶつかった。はずであった。
窓はいつの間にか開いており、私は窓の外に半身を投げ出した。危なかった、と思う間もなく、私の下半身が不自然に持ち上がる。ついには窓の縁にかかっていた両手も外れ、私は3階の窓から転落する。落ちながら見た閉まり行く窓の向こうには、確かにあのウサギがいた。

目が覚めると私はベッドから転落していた。眠い目をこすりながらベッドに戻ると、そこには棚から転落したウサギの縫いぐるみが転がっていた。