数の悪魔

昔、数学が苦手だという私のために、父がある本を買ってくれたことがある。タイトルを「数の悪魔」と言うのだが、別に悪魔でもなんでもなく、単に分かりやすくて面白い数学の本であった。
その本は私に、数とは一体どういうものか、数えるというのはどういうことなのかを教え、それにより、私は数学が好きでいられた。そして、大学レベルの数学にも、何とかついていける。偏に、この本のお陰である。
しかし、この本の中の「数の悪魔」は、私にたった一つだけ、呪いを掛けて行った。その呪いとは「階乗を『びっくり』としか呼べない呪い」である。その本は、小学生から高校生までを対象とする本で、階乗や累乗と言った難しい概念を分かりやすくて説明するために、便宜的に「びっくり」などの呼称を使っている。巻末に「本当は『階乗』って言うんだけどね」という意味の解説が載っていたのは覚えているのだが、既に私の中では「びっくり」という言葉が先行してしまい、どうしても階乗と呼べないでいる。数式を説明する際に、何の気無しに「びっくり」という言葉を使ってしまうと、友人や同級生に少し馬鹿にされる。
数学が好きになり、得意になる事に対する対価ならば、十分安いのだけれど。